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汐音の返事をあっさり流し、魔王は長く垂れた前髪を乱暴にかきあげると、地図を指差しながら厳つい顔で尋ねてきた。随分と偉そうな口調なのが、いかにも魔王らしいと笑ってしまいそうになる。
しかし見た目には、魔王というよりは完全にヤクザっぽい。裾が長くコートみたいなロングスーツを着込んではいるがネクタイは崩し、ポケットに突っ込んでいる手は黒い革手袋に覆われている。
靴はなにやら先が上を向いていて、とにかく形が派手だった。これがヤクザであるのなら、トップの人間だろうなと一目でわかる服装だ。
もっとも、汐音は以前の魔王を知っているので、頭から魔王の証の角を生やし、背中から漆黒の羽根が伸びていれば完璧だった。鍛えあげられた体がチラリと覗いていて、姿形はそっくりとしか言いようがない。
堅気の人間ではない貫禄と、人を殺しそうな視線にごくりと喉を鳴らす。とてもじゃないが、実戦向きではない魔導士だった汐音がどうにかできる相手ではなかった。
「ここなら近いので送りましょうか」
「悪いな」
スマートフォンを仕舞い魔王に向き直る。ごく自然に接点を持つなら、この方法しかないだろうととっさに判断したのだ。
梓真の生死を確認できていないという不安要素はあったが、魔王から目を離すほうが厄介だと思った。行き先の地図を受け取ると、なるべく話をしようとゆっくりとした動作で汐音は歩く。
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