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目的地までは数分。着くまでになんとか魔王のことを探りだせればよかったが、汐音は妙に緊張してしまい普段通りに話すことすらままならない。
口を開きかけては言い淀み、明らかに不審に見えたのだろう。信号でぴたりと足を止めた魔王が低い声で尋ねてきた。
「この辺に住んでいるのか」
「いえ、違います。職場が近いんですよ」
「職場? お前学生じゃないのか」
「今年で三十です。実はよく間違えられて困っているぐらいで……」
「ならばその眼鏡を外せばいい」
「これを外すと、もっと幼く見えるんですよね」
あまりにも頻繁に問われることだったので、汐音は苦笑しながらすらすらと答えた。はじめて会う人には、必ず年齢のことで驚かれる。
男にしては低めの身長と幼い容姿のせいで、酒を扱っている店に入ろうとすれば止められ年齢確認を求められた。営業職ではないが、たまに取引先の人間に会うと絶句される。
普段着はパーカーや、ラフな格好ばかりなので余計に二十代後半には見られない。その雰囲気が、年齢の高い人から話し掛けられやすい一員でもあるので、汐音は嫌じゃなかった。
結果的に場が和んで話が弾むのであまり気にしていなかったが、堅気の人間ではない雰囲気の魔王と打ち解けるとは予想外だ。やけにまじまじと見つめられて恥ずかしかったが、どうやら印象に残ることはできたらしい。
「苦労しているのか」
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