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「いや、そうでもないですけど」
「見た目だけで誤解されることは、俺にもよくある。お前の気持ちはわかるぞ」
言いながら魔王の目元が一瞬緩んだように見えた。その表情を目にして、汐音は自身の考えが間違いだったのではないのかと迷いはじめる。
魔王と同じ姿をしているが、汐音のように過去の記憶を失い転生した可能性もあった。もしそうだとしたら、現在の行為は梓真を救うことには繋がらないのではないか。
どうしよう、と思い始めたがそこでハッとする。汐音に声を掛けてきた時の、魔王という決定的な一言に説明がつかなかったからだ。
あまりに普通の話をしただけで、すっかり騙されてしまいそうだった。気を取り直して、汐音は前方を指差す。
「多分あれ、です。ほらホテルの名前が一致します」
「あのまま歩いていたら、絶対に辿り着かなかったな。感謝する」
方向音痴の魔王なんて、酷いギャップだった。きっと魔法を使えば一瞬で目的地には行けるだろうに、そうしないのは理由でもあるのか。
聞きたいことは山ほどあるのに、ギリギリのところで飲み込む。ここで汐音の正体を悟られるわけにもいかない。
前世でシオンは魔王を封印しているのだ。
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