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そのことに気づかれたら、神の子だった梓真よりも恨まれるに違いないだろう。以前のように光の魔法が使えれば多少は太刀打ちできるかもしれないが、呪文を唱えてもなにも起こらないはずだ。
体から光の魔法力が一切感じ取れない。時間を遡ることはできたけれど、かなりの大技なのであれで力が尽きたのではないか。
目的の建物の前までやってくると、さすがにここで別れるしかなかった。せめて名前ぐらい聞いてもいいだろうか、と考え込んでいた矢先に激しく肩を叩かれる。
「これから暇か」
「え?」
「礼をしたい。俺につきあえ」
「いや、その……」
「名前はなんだ。言え」
まるで先読みでもされているみたいに、タイミングよく名まで問われる。汐音にとってあまりにも都合がよすぎて、びっくりして固まった。
魔王の動向は非常に気になる。誘いに応じたいが、梓真との約束があったのですぐには返事ができなかった。
「あっ、すみません。ちょっと出ていいですか」
「好きにしろ」
最高のタイミングでポケットが振動したので急いでスマートフォンの画面を覗くと、相手は梓真だった。男に対して断りを入れて取る。
「梓真あの……」
『急にごめん。実は今、家族から連絡があって急遽家に帰らないといけなくなったんだ』
「えっ帰るって、どういうこと」
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