1840人が本棚に入れています
本棚に追加
慌てて平静を装い事情を説明すると、自然と魔王の口に笑みが浮かぶ。喜んでいるのだろうと思うのだが、鋭すぎる眼光と不敵な笑い方のせいで背中に冷汗が流れる。
怖い、怖すぎる。
魔王という肩書きを知っているせいなのか、汐音には異様な闇のオーラが漂っているようにも見えてしまう。誘いを断ることにならなくてよかった、と心底安堵する。
同時に、魔法力のないただの人間では無力だと実感した。怯えを顔に出さないまま一緒にいるのが精一杯だと、先のことが容易く予測できてしまう。
「ホテルの外に出ると迷いそうだ。中で食事でいいな」
「食事って、そんな結構です! 道案内しただけなのに気を使わなくても」
「遠慮しなくていい」
「でも……」
「いいからさっさと行くぞ。ついて来い」
見るからに高そうなホテルだったので焦り、遠慮したのだが魔王は汐音の話も聞かず歩いて行こうとした。だが、凄い勢いで振り向いてドスの効いた声で告げてくるので怯えてしまう。
逆らわないほうがいい。とてもじゃないが、道案内のお礼をするという雰囲気ではなかったが、汐音は行かないほうが絶対に危ないと判断した。
「おい名前は」
「俺は、久禮汐音です」
「黒瀬汰央だ」
そういえば、魔王の名前なんて知らなかった。だからがっつりと日本人の名を教えられて、意外だなと目を丸くする。
最初のコメントを投稿しよう!