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無言で顎をしゃくる黒瀬の隣に並ぶと、十センチ以上は差があった。きっと年齢も十くらいは上だろうなという見た目だったので、他人が見たら随分とちぐはぐな二人に見えたのだろう。
ロビーを歩いていると、予想通り汐音はやけに視線を感じて落ち着かなかった。受付で黒瀬が手続きをするのを待つ間も、どこかに隠れてしまいたいぐらいだ。
ルームキーを受け取ると、ようやく移動しはじめたので早足に追う。ホテルの内装はやたらときらびやかで、汐音にはまるで縁のない世界だった。
スーツ姿の黒瀬は慣れているのか堂々としていたが、普段着の汐音はあまりに場違いで俯く。
「どうした」
「えっと、黒瀬さんやっぱり、俺」
「呼び捨てでいい、汐音」
「へっ?」
「苗字で呼ばれるのは嫌いだ」
年上の相手をいきなり呼び捨てにするなんて、激しく抵抗があった。万が一魔王となんら関係のない人であった場合失礼にあたる。
どうしようかと思案しているうちに、エレベーターが到着し扉が開く。すると、革手袋をしたままの黒瀬の大きな手が服の裾を強く引っ張った。
「言う通りにしろ」
「あの、でも」
「俺に逆らうつもりか?」
焦っていると、黒瀬がやけに距離を詰めてわざわざ汐音の耳元で低く囁く。とっさに動けなくて、両足が床に縫い止められたみたいだった。
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