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「仲がいい友人がいるのは悪くない。俺からしてみれば羨ましいぐらいなんだが、そろそろ年齢的に見過ごせなくなってね」
「それで、俺から梓真を説得して欲しいということですか」
「うーん、まぁそういうことなんだけど無理にとは言わない。あいつが頑固なのも知っているから、ちょっと話をしてくれるだけでいいんだ」
「わかりました。それとなく話してみます」
大きく頷きながら、内心汐音はショックを受けていた。まさか、梓真に恋人ができない原因が自分にあるなんて気づかなかったのだ。
すぐ傍で何十年も一緒だったのに、真実をはじめて知った。どうせならもっとはやく知りたかったと思う。
友人として楽しく過ごせるのは嬉しかったけれど、大切だからこそ幸せになって欲しい気持ちが強いからだ。汐音自身が女性を苦手なこともあり、友の梓真には自分の分まで人並の家庭を築いて欲しい。
話が終わり喫茶店を出て勝則と共に駅まで歩きながら、どう切り出そうかと考えていた。その時、気になる人影が視界に入る。
「すみません、ちょっといいですか」
「おい久禮!」
またか、とすぐ横で声が聞こえたが無視をして目当ての人物に駆け寄る。白髪交じりの壮年の女性が不安そうな顔で振り返った。
「あのもしかして、道に迷っていませんか」
「えっ……まぁ、どうしてわかったの」
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