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勝ち誇ったように微笑みながら、梓真が肩に手を乗せる。図星を突かれて鼓動がはやくなっていたので、なんとか平静を装うとしたが無理だった。
嘘をついて見破られなかった試しはない。それぐらい、汐音のすることや考えは常に梓真に読まれていた。
「仕事が終わって、兄貴と会っていたよね」
「なっ、なんで?」
いきなり核心を突かれてしまい、パニックに陥ってしまう。口をあんぐりと開けたまま固まっていると、耳元でクスクスとおかしそうに笑うのが聞こえた。
「なんで、俺が知っていたと思う」
「見ていた、のか。もしかして……ッ」
「うーん、見ていたっていうか、聞いていた?」
「そんなまさか……」
「悪気はなかったんだよ。珍しく汐音の会社の近くまで来たから待っていようと思ったのに、兄貴と喫茶店に入ってさ。コソコソするなんて、なにかあるとピンとくるじゃないか。ふたり共、すごく鈍いから楽に尾行できたけどね」
しおらしい口調だったが、梓真の瞳は笑っていなかった。確かに、上司とはいえ頻繁に飲みに行くような関係じゃなければ、おかしいと感づいてもしょうがないのかもしれない。
汐音だって、梓真の兄弟でなければ断っていた。それぐらい、人づきあいが苦手だという自覚はある。
今回は運が悪かった。話す前から失敗していた、と項垂れてしまう。
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