第4章 信じるものは

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 ぶんと、空を裂く音が聞こえた。 「なる、ほど……我が国の皇帝陛下は本当に、凄い方ですね。では、現在アステル王国に攻め入らんとしている新たな国は、セレーネさまを見つけるために、放置なさったんですか?」  ――どういう、こと……?  互いに避けながら喋っている二人の会話に、セレーネは驚いて口が塞がらない。  アステル王国がまた侵攻されそうだなんて、それにテオドールが自分を救うためにそちらを切り捨て軍を自分への捜索に動かしただなんて。  有り得ないと、セレーネはふらつく身体に鞭を打ち立ち上がる。 「放置、か。お前は阿呆なのか……? 我が副官殿は優秀なんだ。あちらは私が指示せずとも大丈夫であるし、宮殿にも最低限の幹部たちを残しているから、この帝国が襲われようとも……問題はない!」  近づいてこようとしたセレーネに気がついたのか、テオドールは切っ先を向けたディオンの剣を弾き飛ばし、ついに彼の喉仏へと剣をあてがった。 「……やはり、あなたには敵いませんね」 「当然だろう。私は、誰にも負けるわけにはいかないのだから」  テオドールの腕に、ぐっと力が入った。  きっとディオンを殺してしまうと焦って走ったセレーネは、上気した顔のままテオドールの腕に抱きつき、必死になって言葉を紡ぐ。 「殺しちゃ、駄目、です……っ」  裸で訴えるセレーネにテオドールの目が剥かれ、動きがぴたりと止まる。  彼が今容赦なく出している気迫は、誰しもが従わずにはいられないほどに、重く鋭く威厳のあるものだ。  国を統べるものとはこういう人なのだろうと妙に納得してしまうくらいの気高さもあり、セレーネは怯えながらも縛られた手のまま、くいくいと彼の腕を引っ張る。 「セレーネ、私はあなたのその美しい姿を見たこの男を、生かしてはおけない」  胸倉を蹴り、床へとディオンを転がし踏みつけたテオドールに震えそうになるが、ここは引けない。 「で、ですが、嫌です。彼は私を救おうと、そう……ぅ、あ……そう、なさっただけなんです」  冷たい空気があたり堪らず嬌声を上げそうになるが、セレーネは下唇を噛んで抑え込み、もう一度腕を引っ張る。  すると諦めたようにテオドールがため息をついて、軍服の上着を脱ぎ、それを肩にかけてくれた。 「ああ……っ」
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