第4章 信じるものは

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「んっ、あ……そう、なんですか?」 「ああ、そうだ。他の男に残された跡を消し去りたいし、大切なあなたを守れなかったことと、激しい嫉妬に暴走してしまいそうだ。……私は、自分勝手だな」  テオドールの甘い言葉は愛撫されているかのようで、ずくんと、下腹部に熱が集まった。 「では、私を壊してください。もう、駄目なんです……テオドールさまが欲しくて欲しくて堪らなくて、疼いて苦しくて、我慢できそうにありません」  はっと、テオドールが息を呑んだのがわかり、セレーネは理性が犯されているとはいえ恥ずかしくなって、咄嗟に顔を掌で覆った。 「あなたの口からそんな卑猥な言葉が聞けるとは、思ってもみなかった。私が使ったわけではないから腹立たしいのだが……媚薬で素直になっているあなたは、淫らで艶めかしく、そそるな」  壊れ物を扱うようにそっと、また近づけられる顔。  手をよけられると熱い吐息が鼻先をかすめ、彼の長い睫毛が肌を撫でる。  キスをされる。  そう思い瞼を下ろしたセレーネは、唇に感じたテオドールの熱に、涙が溢れそうになった。 「ん……っ……」  とても優しくて、砂糖のように甘い甘い口付け。  ディオンに奪われた時とは違い心が悦びを上げ、歓喜から身体がぶるぶるっと震える。  だが、その震えが怖がった末のものであるとテオドールに勘違いされてしまったらしく、すぐに離された。 「セレーネ、怖いのか……?」 「ち、違います」 「だが、身体が震えている。……やはり、やめるべきだろう。あなたに恐怖を与えたくはない」 「ちが……っ。違うんです、その、ディオンさまに口付けされた時はとても怖くて嫌だったのに、テオドールさまの口付けはとても甘くて幸せで、だから、その……」 「セレーネ」  ため息交じりに、名前を呼ばれた。 「頼むから、そう、本当に……私を、煽らないでくれ。それに」  テオドールの指が頬を伝い、顎を掴まれる。  自分を見下ろす彼の瞳が怒りを孕んでいて、セレーネはビクッと肩を跳ねさせた。  なんなのだろうか。  狂おしいまでの劣情とめらめらと燃え盛る炎は“捕えられた、逃げられない”と本能が騒ぎ立てるのに、どうしてか怖いのではなく、嬉しくて戸惑ってしまう。
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