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何度も達ってしまったあの時から、まだ数時間しか経っていない。
引き千切られてしまったドレスはとてもではないが着られず、テオドールの上着でなんとか肌を晒さずにすんでいる状態だったから、宮殿に着いてナイトドレスに腕を通せた時は、とても安心した。
肌を撫でるシルクの触り心地は、とてもいい。
あの後自分の反応からなにか聞いていると察したらしいのに、まだテオドールに問い詰められてはおらず、セレーネは内心ほっとしていた。
祖国が攻め入られたのは、テオドールの策によるものだったのかもしれない。
この国の前皇帝が死んだのは、テオドールが毒を盛ったからなのかもしれない。
ディオンに囁かれた言葉が毒のように心をじわりじわりと侵食してきており、セレーネはその嫌な考えを振り払いたくて、大きく息を吐き出した。
――テオドールさまは、そんなことしないわ。
そう思うことしかできないし、そう思いたくてセレーネは布団に丸まった。
今の祖国の状況も、凄く気になる。
媚薬のせいで快楽以外のことに頭が回らずにいたから、正気に戻った瞬間にあれやこれやと考えてしまって、正直つらい。
こんな時テオドールに傍にいてほしい気もしなくもないが、やはり、今は一人の方が気が楽で、誰も部屋にいないこの状況はありがたかった。
しかし、不意に扉が開けられた気がしてひょこりと顔を出したセレーネは、視界に入った愛しい人に少し困ったように眉を下げてしまう。
「セレーネ、私はまだ、あなたの問いかけに答えることはできない」
まだ訊こうとはしていなかったが、先制され、セレーネは驚いた。
「だが、アステル王国の状況と今のこの帝国の状況については話せる」
ぎしりと、スプリングが鳴る。テオドールがベッドの端に腰を下ろしたのだ。
音に導かれるようにして目で追ったセレーネは、揺らいでいるように見えた彼の瞳に瞬きを繰り返した。
しかしすぐにその揺らぎは消えていて、見間違いだったのだろうかと小首を傾げてしまう。
「まず、あなたの祖国についてだ。……キュロスと、元々アステル王国を守るために置いていた幹部と騎士たちがいるから、心配しなくて大丈夫だ。だから、安心してくれ」
強い光を孕む目からして嘘ではないし、自信があるのだろうと察せられ、セレーネはこくりと頷いた。
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