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「我が国についてなのだが……」
今、自分がいる国のことだからなのだろうか。緊張からか、身体に力が入ってしまう。
じっと見ていると離れていた彼が近づいてきて、不意に頬を撫でられた。
ひんやりと冷たいのに優しい手つきだったからか心があたたまり、力が抜けていく。
――あ、私……。
皇帝の話を寝ながら聞くのは、極刑に処されてもおかしくないほど失礼であるというのに、そのまま聞いてしまっていた。
酷く疲れた身体が思考を鈍らせていたのだろうが、許されることではない。
慌てて身体を起こし謝罪しようとするが、テオドールの腕がそれを阻止して、セレーネはきょとりとエメラルドの瞳を瞬かせた。
「無理をしなくていい。腰だって、つらいのだろう?」
「で、ですが……」
「今この部屋にいるのはあなたと私だけなんだから、気にする必要はない」
頬を撫でていた熱が、髪の毛へと移される。
指にくるくると絡め遊ぶ彼の眼差しはとても穏やかなもので、セレーネは目尻を下げた。
片膝を立てながら優雅に微笑まれると、なんだかドキドキしてしまう。
冷俐な美貌の彼が見せるこの甘い顔はとても心臓に悪いし、なにをやっても気品にあふれていて、ついつい見惚れてしまう。
「……っ」
そろそろ話さなければならないと思ったらしいテオドールの放つ空気が、氷の皇帝らしい冷たさを孕んで、セレーネは下唇を引き結んだ。
「……私を失脚させようと動いていた者たちを、先ほど捕らえさせた」
本題に戻った彼の顔つきは、先ほどの柔和なものとは似ても似つかない。
自分の心臓を握られているような感覚は、身体の末端から冷えていくような錯覚に陥らせ、今度は恐怖から心臓の鼓動が速くなってしまう。
「手薄な今を好機だと思ったのだろうが……私はそこまで、馬鹿ではない」
ここが手薄になったのははたして、たまたまであったのだろうか。
いいや、違う。恐らくテオドールが計算した通りに事が運んだに違いない。
くっと持ち上げられた口角に、鋭く冷たい光が駆け抜ける瞳。
その二点から自分の考えは当たっていたのだろうと、セレーネは息を呑み込んだ。
そして、もうひとつ。彼の言い方からセレーネはとある結論をだして、遠慮がちに問いかけた。
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