第5章 真実の末に

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 なにを決めろというのだろうか。  よく分からず困惑するが、そんな自分を知ってか知らずか話を続けられてしまい、訊ねるタイミングを失ってしまった。 「……繰り返される命の取り合いは、善良な国への侵攻は、ただ父上が楽しく暮らすためだけになされるもので、そこにはなんの大義もないとわかっていたのに、私はこの手を赤く染めていった」  テオドールの肩が震えているのはきっと、父親への怒りではなく、自分に対しての憤りなのだろう。  見ているのはとても痛々しくて、もう話を止めてほしいと思うのに、そんな思いは伝わっているはずなのに、テオドールは決して口を閉ざそうとはしない。 「家族を守るために、国を守るために。そうやって命を賭していたであろう相手に私は容赦なく剣を突き立て、命を奪った。……何故、何故私は人を殺さなければいけなかったんだ……? 何故、私利私欲にまみれた父上と、そんな父上に群がり甘い蜜を吸うやつらのために、私はいつ死ぬかもわからない日々に怯え、生きていかなければならなかったんだ……?」  腰を撫でてくれていたテオドールの手に力がこもり、身体に鈍い痛みが走った。   「私は父上を恨んだよ。憎くて憎くて堪らなかったんだ。……そして私は次第に父上と会おうとしなくなり、そのせいで彼が病に苦しんでいたことに気がつけなかったというわけだ」  テオドールの長い睫毛が揺れる。  憎んでいると言っているのに、何故だろう。  本当にそうなのだろうかと思ってしまうくらいになにかが引っかかり、セレーネは自分の唇に指を置いた。 「……私はね、セレーネ。父上が亡くなったという悲報を戦場で受けた時、心から喜んでしまったんだ。そして帝位を継いだ時私は、そんな父上に群がってたやつらを一掃してやった。まあ、それが原因で命を狙われるようになったというわけだ」  話は以上だと肩を竦めたテオドールにずきずきと胸が痛んで、セレーネは泣きそうな瞳を隠すことなく向けた。 「どうして、どうしてテオドールさまは我が国に、私のお父さまに教えてはくださらなかったんですか? 私のお父さまとテオドールさまのお父さまは親友であったはず。でしたら――」
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