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「はっ、どうして助けてほしいなどと言いにいける? 私は皇族で次期皇帝だったんだ。他国の者に助けを求めるなんてできるはずがないし、あなたの父上はすぐに私の父上を切り捨てたではないか……っ」
――お父さまが、そんな、まさか。
今の自分は、みっともなく口でも開けて驚いてしまっているのだろう。告げられた言葉が呑み込めなくて、なにも言えない。
「……声を荒げてすまなかった。まあ、これで私の命が狙われるようになった経緯はわかっただろう? 傲慢な者たちを強引に引きずり降ろし、追いやったんだ。恨まれて当然であるし、金と爵位までは奪っていなかったからこうして厄介になっていったというわけだ」
そっと、テオドールに抱きつくセレーネ。
「な……っ」
「……話してくださり、ありがとうございました」
予想していなかったらしい自分の行動に狼狽えてしまっているテオドールに、ふふっと微笑む。
「テオドールさまは今も昔も変わらずに、……優しいんですね」
「私が、優しい……? なにをわけの分からないことを言ってるんだ、セレーネ」
「わけの分からないことではないと思いますよ。きっと、キュロスさまも私と同じことを思って、だからこそお傍を離れるという気にならないんだと思います」
本当に言われている意味がわかっていないのだろう。
柄にもなく焦っているテオドールが愛しくて、セレーネは逞しい彼の胸板に頬をすり寄せる。
「お気づきではないんですか……? テオドールさまが怒っていらっしゃるのはきっと、自分自身にですわ」
「なにを、言って……」
「テオドールさまはお父さまを恨んではいらっしゃらない。……恨んでいるのはきっと、ご自身のことですわ」
本気で戸惑い息を呑むテオドールの背中を撫で、セレーネはエメラルドの瞳を輝かせ見上げた。
「テオドールさまはその、自分を貶める時、必ずそうやって皮肉めいた空気をおまといになります。……私はそれに気がつかないほど愚かでも、テオドールさまを見ていないわけでもありませんわ」
好きだと言ってしまった今となっては、色々と隠す必要はない。
やってしまったという気持ちはぬぐいきれないが、もうこの際やけくそだ。
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