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そうでもしていないとあまりにも気まずくて彼と同じ空間にいれやしないし、こんな気持ちであるからこそ、普段言えないことでも言えるというものだ。
「テオドールさまの心の内を知りたいと、そう願ってしまうのはやはり、傲慢ですか……?」
懇願するように言うと、テオドールの顔が一気に強張った。
どういうつもりで言っているのかと疑るような視線は少し悲しいが、やむを得ないだろう。
きっとテオドールは自身の気持ちを他者に吐くなんてこと、してこなかったのだろうから。
「……知って、なんになる?」
「満足します」
「満足? 私はあなたの満足のために言わなければならないのか……?」
「ふふっ、そう言わないとテオドールさまはきっと、この部屋から出て行ってしまわれるのではないですか?」
見透かされたとでも言いたげに寄せられた眉頭に、セレーネは優しく微笑んだ。
さながら聖女のような顔にテオドールは諦めを覚え、大きく深いため息を吐き出した。
「あなたはひとがよすぎる。……だから私のような者に、つけ込まれるんだ」
「テオドールさまになら、構いませんわ」
はっきり伝えたら、彼が疲れたといわんばかりに肩を落としたため、不安になる。
気持ちを落ち着かせようと、身体が勝手に胸の前を掴んだ。
そんな今のセレーネの顔は、親に怒られる前の幼子のようである。
「そういうところが憎らしくもあり、愛しくもあって離せないのだと、何故分からない」
苛立ちが目立つ声音と口調なのに、向けられた視線がとても弱々しく儚げで、不本意ながら大きく心臓が跳ねてしまい、頬を朱色に染めた。
だからなのだろう。少し照れたようにテオドールが視線を逸らし、自分の首元に顔を埋めてきてくれたのは。
かかる吐息が、くすぐったい。
なんとなくではあるが彼が泣いているような気がして、セレーネはよしよしとテオドールの頭を撫でた。
すると滲みでる不服そうな空気にしまったとすぐにやめ、ごくりと空気を呑む。
「あなたに子供扱いされるのは好きじゃない」
「ごめん、なさい……」
「別に怒ってはいない。それで……あなたは私の心の内が知りたいと言ったな? だが、私自身、私の心の内が分からないんだ。ずっとそうして生きてきたから、よく、分からない」
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