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きつく抱き締められ、セレーネは胸が抉られる思いに打ちひしがれた。
この人は自分の悲しみや苦しみを吐き出せないのだと、そう思ったらとてもつらくてやるせない。
だからこそ、どう聞けば吐き出せるのだろうかと一生懸命考えて、セレーネは口を開く。
「ええと、テオドールさまはお父さまのことがお好きでしたか?」
「……分からない」
「では、お母さまのことは……?」
「母上はとても優しかった。最期の最期まで私と父上のことを気にかけて、それで……。そうか、そういうことか」
なにかひらめいたらしいテオドールの肩が、小刻みに震える。
「思いだしたよ、セレーネ。私は、父上のことが好きだったんだ。賢王と謳われ、国民から厚い信頼を得ていた父上のことを、母上と私に優しかった父上のことを、心から愛していた」
ぽつり、ぽつり。当時の想いを思いだすように、手探りで記憶をかき集めるように。
苦しげに唸る獣のように言葉を紡ぐテオドールはとても痛々しいが、セレーネは黙って聞き、彼の背を撫でることを再開した。
「だからこそ、堕落してしまった父上のことが許せなかったのかもしれない。いや……」
テオドールはきっと『怒っているのは、恨んでいるのは自分自身に』という言葉を思いだし、彼なりに自分の思いを探しているのだろう。
肌を撫でる吐息が弱いのは、悩んでいるから。悩み、考えているからなのだとわかるもので、セレーネはテオドールの気を散らさないようにと、息を殺す。
「私が許せなかったのは、私自身なのだろうな。……あなたが言った通り私は私自身に怒り、私自身を呪い恨んでいたのだろう」
今の沈黙は重くて嫌なものだ。
「大好きだった父上をとめることができなかった愚かさと、従うことが正しいのだと逃げ、考えることを放置してしまった己への……。もしあの時、私が父上をとめられていれば、こんなふうにはならずに私はきっと、父上を送り出せていたんだろうな」
自嘲気味に吐き出されたものは、とても悲しいもので。
決して顔を上げようとしない彼の腕に力がこもり、締め付けられて痛いのだが、セレーネは文句を言わず甘んじて受け入れた。
今、自分の目の前にいるのは、氷の皇帝ではない。だたのテオドール・ラリス・クラウディウスであり、セレーネは彼を慈しみの心で包み込んで目を伏せた。
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