第1章 祖国のために

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 シルクのように艶やかで指通りのいいセレーネの髪を撫でたテオドールが、その美しい金に囲まれた華奢な、それであってまだ幼さの残る輪郭に目を伏せる。  獰猛な獣が獲物を狙うような、そんな鋭い視線がセレーネに突き刺さった。   ふっくらとしてみずみずしい、果実のようなセレーネの唇。そこに触れ、テオドールが小さな声で呟く。 「あなたのここは、違う男に愛を囁いたことがあるのだろうか。だからあなたは、こんなにも悲しそうなのだろうか」  ぼそぼそと言われたせいで、セレーネにはまったく聞き取れなかった。  するとテオドールがぎりりと奥歯を軋ませ、強く腕を掴んでくる。 「え……? あ、あの、皇帝陛下……?」  驚き瞬きをするセレーネ。そんな彼女の手を引き、黙々と寝室を目指すテオドール。  衛兵が立っている、アラベスク柄の彫刻が目を惹く立派な扉を開かれた時に、ようやく察したセレーネは嫌だと足に力を込めるが、テオドールに敵うはずもなく。  ブラウンとゴールドを基調とした、品のある家具に目を向ける間もなく奥の部屋へと連れ込まれた彼女は、広々として寂しい大きなベッドの上へと押し倒され焦りを浮かべる。  背中を打ち付けないよう庇われて、落とされたとはいえ、多少は衝撃があり、一瞬顔が曇った。 「…………っ」  軋むスプリングの音と、ベッドに広がるセレーネの髪。  覆い被さられそうになり、慌てて上半身を起こし後ずさったセレーネを追い詰めるように、また、ぎしりとスプリングが鳴る。 「こ、皇帝陛下……!」 「テオドールだ、セレーネ姫。私のことはテオドールと呼べ」  逃げようとすると、重厚な天蓋の角からすとんと吊るされている四つの深紅のサテンが揺れ、よけいにセレーネを焦らせた。  その、切羽詰まった表情が、テオドールの雄としての本能を昂らせる。   「や……っ」  長い指が顎にかかり、強引に上向きにさせられた。  そして重ねられた唇に驚いて、セレーネは瞳がこぼれ落ちそうなくらい見開き、可哀相なくらいに身体に力を入れる。 「ん、ん……っ」
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