第1章 祖国のために

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 固く閉ざしている唇を濡れた舌で舐められ、セレーネは嫌だとテオドールの胸板を押すが、鍛え抜かれた彼の身体は当然ぴくりとも動かない。  顔を背けたいのに確りと顎を掴まれていて、ついに入ってきたやわらかな舌に、口腔を蹂躙(じゅうりん)されてしまった。 「ふっ、う……っ」  くちゅっと、聞いたこともない音が耳を掠める。  唾液を絡め取られるその水音は卑猥で、セレーネは必死になって抗おうとするが、甘い痺れが脳へと届き、力が抜けていった。  初めて交わす口付けは甘くなく、とても悲しいもので、セレーネは泣きだしたい気持ちでいっぱいになった。  彼は自分のことが好きで、やってきているのではないのだろう。  きっとこれは、彼を怒らせたなにかの罰なのだ。  そう思うと、執拗に擦りつけてくる肉厚的な彼の舌に、胸が締め付けられた。  ぬるっとした感覚によく分からない疼きが肌を駆け上がってきて、甘い吐息が漏れる。  情熱的に、獲物を捕らえた獣のように。  やがて頭の裏に手を回し固定してきたテオドールにセレーネは止めてと必死に身を(よじ)り、ぽろぽろと涙を流した。  すると、しまったといわんばかりの動きで唇を離され、流れ落ちる滴を指で拭い取られた。 「すまなかった。あなたにそんな顔をさせたかったわけではないんだ……」  氷の皇帝らしからぬ弱り切った顔をされ、涙が思わず引っ込む。 「あなたを前にしたらどうも冷静ではいられない。……私は、どうしたら許される?」  本当に反省しているらしいテオドールに頭を優しく撫でられ、セレーネは呆けた。  先ほどまでの冷たくて、怖かった彼はどこへいったのだろうかと思ってしまうし、なんだか身体の力が一気に抜けてしまった。 「い、いいえ。その、私の方こそ泣いてしまい申し訳ございませんでした」 「いいや、あなたが謝ることではない」  そう言って離れていくテオドールの瞳がかなり疲弊していることに気がつき、セレーネは手を伸ばし、引き止めてしまった。  テオドールが驚いて、息を呑んだのが分かる。 「その、えっと……先ほどのお言葉なのですが、こ、ここで。今ここで一緒に寝てくださる……というのでいかがでしょうか? 知らない土地で一人で過ごす夜は少し、寂しいのです」
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