第1章 祖国のために

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 刃のような鋭い言葉。  こくこくと頷くしかなく身を縮めたセレーネは、さらに引き寄せられ、目を閉じた彼を凝視した。  相当疲れていたのだろう。  あまり時間も経たずしてすぐに規則正しい寝息が聞こえ、深い眠りの世界へ落ちたのであろう彼に続き、セレーネも眠りの世界へと旅立った。  ◆◇◆◇◆  朝の心地いい陽がセレーネの頬を撫でる。  隣に感じるひとの体温に寝惚けている目を擦り、セレーネは顔を熟れた果実のように真っ赤に染めあげた。  それは、じっとテオドールがこちらを見ていたからだ。  恥ずかしさあまって、テオドールの引き締まった胸板に顔を埋めてしまう。 「……あなたは朝から誘っているのか?」 「ち、違いますわ……!」  か弱い声で否定したからか、テオドールの鼓動が速くなった気がする。 「ならば、無防備に男の身体に触らない方がいい」  淡々と言われしゅんと肩を落としたその、なんとも庇護欲をそそられる姿は、起きたばかりの彼には少々刺激が強かったようだ。  頭痛がすると視線を逸らしたテオドールに、セレーネは迷いながら話しかける。 「あの、テオドールさま……その、私、服を……」  布団の中から出られず繊細な声で言うセレーネの今の姿からは、自分の国を救ってくれと勇ましく頼み込んできたあの姿など、想像できやしない。  面白いと微笑するテオドールに、セレーネは小首を傾げた。 「今、あなたの着替えを侍女に頼んでいる。……私は別の部屋で着替えてくるから、慌てずこの部屋を使うがいい」  そうはいっても、皇帝をさしおいてここで着替えるなど申し訳なくて、眉が下がった。  そんなセレーネと部屋を出て行こうとしたテオドールの耳に、扉を叩く乾いた音が届いた。 「入れ」 「……失礼致します」  鷹と薔薇の透かし彫りの扉を開き深々と頭を下げ入ってきた侍女に、セレーネはあっと声を上げる。  彼女はセレーネの幼馴染みであり、親友であり、ずっと仕えてくれていた気心の知れる侍女だったのだ。  ブロンドの肩上くらいの髪を揺らし顔を上げた彼女と目が合った瞬間、全身が歓喜に粟立ち、セレーネは勢いよくテオドールの顔を見やる。 「テオドールさま、まさかテオドールさまがエレナを……? ありがとうございます」
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