第1章 祖国のために

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 うーんと悩んでいたからだろう。ようやく、テオドールが口を開いた。 「あなたの祖国なのだが……畑を荒らされ、村は焼かれ、街も酷いありさまだが、安心するがいい。我が国が貴国の経済状況が落ち着くまで援助するし、これ見よがしにくるだろう侵略者からも守ってやる」  さーっと、ちょうどいい温度の風が二人の間を駆け抜けていく。  鼻腔をくすぐる、薔薇の甘い香り。  恐ろしくて訊きたくても話題に出せなかった祖国の状況を話され、セレーネはごくりと唾を呑み込んだ。  すると、複雑に編み込まれ上げられている髪に触れられ、ぜんぜん違うことを真剣な声音で告げられた。 「それと、婚儀は一月さきと決まった――」
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