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「テオドールさまはいつ頃、また来てくださるの?」
「そうだね、早くて一月後かな」
「早くて、一月後……あのね、遅くても二月後には来て欲しいの」
「どうして?」
「だ、だって、その……」
熟れた果実のように赤く、やわらかそうな唇をもごもごとさせ、少女は恥ずかしいと顔を赤く染めあげた。
少年の流れる銀の髪が、不思議そうに揺れ動く。
切れ長ですっとした彼の瞳は一見冷たそうに感じるが、とても穏やかな色を浮かべていて、少女が言葉を紡ぐのを優しく見守っていた。
「寂しいんだもの。テオドールさまに会えないのは寂しくて、悲しいの」
しょんぼりと肩が落ちてしまったのが分かり、少女は慌てて首を振った。まるで、寂しさを振り払うかのような動きだ。
「セレーネにそう言ってもらえるのは嬉しいな。……うん、じゃあ、約束しようか」
そっと差し出された小指に、おずおずと自分の小さな指を絡めた少女は、優しい眼差しにホッとして肩の力を抜く。
テオドールはいつも自分に優しい。
彼の方が自分より六つも年上だからか、困らせてしまってもこうして優しい瞳を向けてくれるのだと、少女は思っている。
だから言いたいことも言えて、やりたいこともやりたいだけできるのだ。
「そろそろ戻ろうか、セレーネ。父上たちの話も終わるだろうし」
「うん。……ねえ、テオドールさま。お父さまたちはいつも、なんのお話をしていらっしゃるの? お国同士のお話なのかな?」
「さあ、私にも分からないし、私たちが知るには早い話だよ」
ぽんぽんと頭に手を乗せられるのは、少し子供扱いされているような気がするが、彼にされるのは嫌じゃない。
むしろ好きなくらいで、しばらくそうしてもらえないのかと思うと寂しくて、胸がズキリと痛む。
「セレーネ、そんな顔をしないで。かわいらしい、いつもの笑顔を、私に見せて……?」
くるんとカールしている女の子らしい長い睫毛に縁取られた少女の目を見つめて、少年は微笑んだ。
顔がとても熱い。なんだか胸に甘酸っぱいベリーのような味が広がって、少女はわたわたと慌ててしまう。
「セレーネ……?」
美しい少年が自分を見て心配そうにしていることが分かり、少女は隠しきれないほどにまた顔を、薔薇色にした。
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