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大切な宝物に触れる子供のように、柔らかく彼の手を包み込んで。
だからかテオドールが怜悧な瞳をよく見ないと分からないくらい僅かに丸くして、動きを止めた。
彼の手は、とても優しい。温かくて、心地よくて、大好きだ。
「で、ですが、私に見せてくださったお姿も、テオドールさまの本来のお姿ですよね……?」
遠慮がちに問うと、テオドールが言葉を詰まらせた。
自分は間違ったことを言ってしまったのだろうか。
どうしようとセレーネが悩むよりも先に、テオドールがばつが悪そうに目線を逸らし、困ったと言わんばかりに深いため息をつく。
「あなたには敵わないな。……セレーネ、私は今からしばらく戻れないだろうから、エレナ嬢と共にあなたの部屋に居てくれ。本当であれば今日、私がその部屋を案内するつもりだったのだが、致し方あるまい。場所はエレナ嬢に教えてあるし、あなたの部屋の前には信頼できる衛兵をつけているから、安心して待っているがいい」
信頼できる、衛兵。
従順に頷いたセレーネは、自分たちを守るために隠れて待機していたのであろう、庭園にいるとある衛兵に小さな恐怖を抱いた。
――な、に……? どうして、そんなに私たちを見つめているの?
さらさらと、その衛兵の短い金糸の髪が風になびいている。
目が合ったと思った瞬間にぱあっと破顔され、セレーネはいいようもない不安にかられた。
普通ならばこのとびきりの笑顔に、自分の考えすぎだったのかと、そう思うはずなのに。
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