第3章 氷の皇帝の顔

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 テオドールと別れエレナと合流したセレーネは、彼に言われた通り自分に与えられた部屋で過ごしていた。  ホワイト、ブラウン、そしてピンクで纏められた、かわいらしい部屋。 置かれている調度品たちから察するに、セレーネのことを考えてテオドールが手配したというのが分かる。  その部屋で落ち着かない様子で紅茶を飲んでいるセレーネに、エレナが努めて明るく話しかけた。 「姫さまのお好きなデザインの物ばかりですね。壁紙のデザインも、姫さまのお好きな薔薇が」 「そうですね。本当に、私が好きな物ばかり。……ねえ、エレナ。テオドールさまは何故、私の好みを知っていらっしゃるのでしょうか。それに、この一月でこれほどの物を“全て”揃えられるなんて……」  ぐるりと見渡して、苦笑するセレーネ。  この部屋はいずれ娶るであろう誰かのために、ある程度用意されていたということは分かる。  だからこそ、ひとつも(たが)わず自分の好み一色で染められている部屋に、動揺せずにはいられない。 「そ、それは……姫さまに再会できた次の日に私、皇帝陛下に色々と姫さまの好みを訊かれたんです。なので、その……。それに、この国ではすぐに用意できるのかもしれませんよ」  パンっと手を打ちつけ、そうに違いないと自分を見るエレナ。  けれど、セレーネは納得することができなかった。いくらなんでも、おかしい。  だが、そう思ってしまうのは、テオドールが自分のために前々から用意してくれていたのではと、どこかで期待している自分がいるからなのでは、と――  結局そういうふうに結論を出し、セレーネは『そうね』と短く返事をして立ち上がった。そして、扉の方へと目を向ける。  ――テオドールさま、キュロスさま……  宮殿の中はいつもと変わらず特に騒がしいわけではないのに、どこか漂っている空気が違う。  部屋の前に立っている衛兵からも緊張の色が窺えて、セレーネは自分の身体を抱くように身を縮めた。  なんだか戦いに備えているような、そんな気がしてしまい、恐ろしくて堪らなかったのだ。  祖国で経験した争いの記憶。それが頭の中をぐるぐると回り、怖くて怖くてしかたがない。  
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