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「あのね、テオドールさまを見ていたら胸がきゅってして、酸っぱくて、でも甘くて、私変なの」
そんな少女の言葉に至極驚いたのか、少年は目を丸くした。
おかしなことを言ってしまったのだろうか。彼が固まってしまうのを初めて見て、申し訳なさと不安に少女は悲しくなってしまう。
「ご、ごめんなさいテオドールさま、なんでもないの。だから忘れ――」
「忘れないよ。だって、とても嬉しかったから」
「嬉しいの? どうして……?」
「それは教えられないよ。でもね、私はいつもセレーネにそんなふうになっているんだよ」
「テオドールさまも、こんなふうに胸が変になっちゃうの?」
とても優しい彼の笑顔が大好きだ。
額にちゅっとキスをされて、少女は照れたようにそこに触れ、ぱっと咲いた花のような笑顔を浮かべた。
そんな幸せな日から、三か月後。
約束である最大の二か月を過ぎても少年は会いに来てはくれず、少女は毎日のように自室で涙を流し、悲しみに明け暮れた。
大好きな泉水はまだ、テオドールのことを思いだしてしまうため寂しくて、行けていない。
「セレーネ、もうきっと、あの子は来れないだろう。……彼のお母さまがね、お星さまになってしまったのだ」
「どうして? どうしてお星さまになってしまったら、テオドールさまは私に会ってくれないの?」
「……あの国とは、彼とはもう関わってはいけぬのだ、我が愛しの娘よ」
「どうしてそんなことをおっしゃるの? 嫌、嫌、テオドールさまに会いたい、会いたいの、お父さま」
――会いたい、会いたい。
そう願いひたすら彼が会いに来てくれることを信じ待ったあの頃から、早十二年。こんなふうに再会するだなんて、誰が想像しただろうか。
「単身でこの私に会いにくるとは……。それで? あなたは私に、なにをお求めか」
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