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よく通る澄んで冷たい、喩えるならば渓流のような、そんな声がアステル王国第一王女セレーネ・ティス・アステルの鼓膜を震わせた。
「無礼なのは重々承知しております。ですがどうかどうか、我が国をお救いいただけないでしょうか……」
緊張から、小刻みに肩が震えてしまう。
顔はきっと、青白くなってしまっているだろう。
入り口から伸びる赤い絨毯のさきにある、玉座に腰をかけていた怜俐な美貌の皇帝が、そんなこちらの様子を見下ろし、くくっと喉を震わせた。
立襟の軍服は艶のある漆黒で、君主らしく豪勢な銀の刺繍が施されており、目を引く繊細な模様の白いマントを際立たせている。
ピクリとも動かない、この世の物とは思えないほど端整な顔立ちの彼が、恐ろしい。
凄艶な唇は、自分の言葉になんと返事をするのだろうか。
大理石で造られた広い王の間は、彼から発される冷たい空気が支配しており、セレーネは今すぐこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになった。
勇ましい神の絵画が描かれている、アーチ状の天井のもと。
規則正しく間を空けて並べられている、ユニコーンの彫刻がなされた柱は光を放っているかのように白くて、それすらも何故だか威圧的に感じてしまった。
その柱の前にいる白い軍服姿の騎士たちの鋭い視線もあいまって、光り輝く金糸の髪を強い怯えからセレーネは小刻みに揺らし、堪えるようにぐっと唇を引き結んだ。
どんなに逃げたくても、セレーネは逃げるわけにはいかないのだ。
彼女の肩には今、アステル王国の存続と民全ての命がかかっているのだから。
「……貴国を助け、我が国になんの得がある?」
「アステル国は鉱石が豊富です。それに、採れるクリスタルは丈夫で砕けにくく良質な――」
「話にならないな。我が国でも鉱石は採れるし、確かにあなたの国のクリスタルは特別なもので惹かれるが、それが手に入らずともなんら問題はない」
氷の皇帝。彼はそう呼ばれ、近隣諸国のみならず大陸で恐れられている。
情には動かされない冷血で冷酷な、帝国の利になることしか考えぬ氷のように冷たい男。
この帝国のためならば、なんだってやるともっぱらの噂である。
そんな皇帝にこうして直接願いを乞うことができるのは恐らく、セレーネしかいない。
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