第4章 信じるものは

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「なんでしょうか……あの、姫さま、私が少々様子を見てきますので、そのままお待ちください」  そっと扉を開けようとしたエレナを見ていたセレーネは、断りもなく突然入ってきた、見知らぬブロンドの男性に腕を引っ張られた。  一瞬しか顔が見れていないため知り合いではないと、そう思ったのかも知れない。  だとしても、現段階で誰だか分からない者に触れられるのは、恐怖でしかなかった。  ――キュロスさまは今日、護衛として付けないって……この方はキュロスさまの代わりとしてきた方かしら? でも、今朝違う方がキュロスさまときていたし、もし、この方もつけようとしていたのであればその時に、一緒に連れてくるか説明されてたはずだわ。 「あの、離してください……!」 「ご安心ください、皇后陛下。私はあなたを救いにきたんです」 「私を、救いに……? 一体なんの話です? それは、先ほど外が騒がしかったことに関係していますか? それと、私をなにか危険なものから遠ざけるのであれば、キュロスさまやテオドールさまからなにか連絡があるはずですし、……っ」  ぎりりと絞められている手が痛く、無理やり連れていかれているせいもあって、セレーネは足をもつれさせた。  辺りを見回しても、衛兵の姿が見えない。こんなのは明らかにおかしく、早く逃げろと鼓動が波打つ。 「離してください……!」  エレナが慌てて追ってきているということは足音から分かっており、セレーネは必死になって足に力を入れた。  しかし、ふわりと抱きかかえられ、足を床から離されては意味がない。 「エレナ、エレナ……!」  セレーネの手から、テオドールのために刺繍したハンカチがはらりと落ちた。 「少し、静かになさってください」  ――この匂いは、なに……?  甘くて、頭がくらくらする香りだ。  ハンカチを鼻にあてられ思い切り匂いを嗅いでしまったセレーネは、猛烈に襲いかかる眠気に抗えず、こめかみを押さえた。  彼は誰なのだろうかとか、何故こんなことをするのだろうかとか、靄がかかった頭ではまったく考えられない。  瞼を下ろしたセレーネの目に、自分を抱えている男性の軍服にある、沢山の勲章が焼きついた。 ◆◇◆◇◆ 「ここ、は……?」  目覚めてすぐ。軽いめまいと頭痛に額を押さえ、現在の状況を整理しようとするセレーネ。
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