第4章 信じるものは

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 差し込む日がかなり明るいことからして、自分は丸一日ほど眠っていたのだろう。  知らない男性に連れ去られ、よく分からない匂いを嗅がされて、それで気を失って。  まだ完全に覚醒しきれていないセレーネは、ゆっくりと眼を動かし、辺りに目を這わせた。  天蓋付きの寝台に寝かされている自分。  天蓋から下りる幕の隙間から見える、ピンクとホワイトで統一されている調度品は、テオドールに与えられた部屋の物とは違う。  言い知れぬ不安が身を焦がし、セレーネは必死な思いで身体を起こした。  震える肩を抱きそっと幕を開けると、自分を連れ去ったのであろう男が、上気した顔でこちらを見ていた。 「ひ……っ」  背筋にぞくっと恐怖が走る。  そこら辺にある枕や調度品を投げつけてしまいたいくらいに恐ろしくて、セレーネはじりりと後退した。  ぎしり、と、スプリングが鳴る。  窓の外からは鳥たちの甲高い声が聞こえ、木々の揺れるさわさわという音が聞こえて、焦りを駆り立てた。 「ああ、そんなに怯えないでください、私の美しいひと」  ――私の、美しいひと……?  まるで自分のことを愛しい恋人だとでもいうような口ぶりに、セレーネは眉根を寄せる。  穏やかで聞き取りやすい声の、その男性の顔にはやはり、見覚えがない。  筋の通った高い鼻筋に、やわらかな印象を与える垂れ目がちな、淡いグリーンの瞳。  それでいて可愛らしい唇は、どこか悦びで歪められていた。テオドールとはまた違った美丈夫ではあるが、そんなことはどうでもいい。 「あなたは、誰ですか……? 何故私を……それに、ここはどこなのです?」 「私は現皇帝によって官僚から降ろされた、カロロス公……メルクーリ家の長子、ディオンと申します。あなたを連れてきたのは、そうですね……あの皇帝から、あなたを救うためですよ」 「私を、救う……? 私は別に、テオドールさまに囚われているわけでも、酷い扱いをされているわけでもなんでもないですわ」  ――そうだ、この方は私を攫った時、救いにきたと仰っていたわ。  自分の発言に対して不思議そうに首を傾げたディオンが、優雅に近づいてきて、セレーネはかたかたと身体を震わせた。
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