第4章 信じるものは

6/23
前へ
/154ページ
次へ
 耳に唇を寄せられ、かかる吐息にセレーネはぞくぞくっと背中を震わせる。  彼の長い睫毛が頬を撫で、愛撫するかのようにねっとりとした声で、衝撃的なことを囁かれた。 「アステル王国がヌクルティス王国に侵攻されたのは……皇帝陛下がそうなるよう、仕組んだからなのだ、と。それに、前皇帝は彼によって毒殺されたのだと、ね」  頭を殴られたかのようなショックが全身を貫き、セレーネは一瞬呆然としてしまう。  沢山の国民が死んだあの悲劇を、テオドールが企てたというのだろうか。  それに、彼が肉親をその手にかけるなど信じるわけにはいかず、セレーネは強い口調で言い返した。 「テオドールさまはそんなことしないわ。それに、クラウディウス帝国になんの得があるというんです……? いい加減なことを仰らないでください」 「得することですか……。この帝国にはなくとも、皇帝陛下が得することはあります」  ドクンと、心臓が跳ねた。  哀れみの目を向けられ、淡い笑みが浮かべられる。  顎に手をかけられ、強制的に顔を彼へと向けさせられた。その近すぎる距離に、セレーネは怯えの色を滲ませる。 「皇帝陛下は、なにを手に入れたと思いますか……?」  すっと、目が細められた。舐めるように自分を見られ、堪らず手を跳ねのけ逃げようとしたセレーネは、強い力で脚を引っ張られて体勢を崩してしまう。  背中がやわらかな寝台の上を何度か跳ね、脳みそを揺さぶられてしまい、軽い頭痛に襲われた。  華奢な肢体を組み敷かれては、なかなか起き上がることができない。  頬を撫でられ、その手が鎖骨へと下りてゆくさまに、セレーネはひっと喉を引きつらせた。 「ああ、本当にあなたは美しい。肌はまるで(ほの)かな光を放っているようで、この世の者とは思えません」  ドレスの袷に手をかけられるとセレーネは瞬く間に青ざめ、肌を粟立たせる。  怖い怖い怖い。やめてとその手に触れたら愉しげに口許を歪められ、歯がカチカチと震えて噛み合わなくなった。 「怯えないで……と、思うのに、そう震えられるとこう、言いようもない恍惚とした感覚が襲ってきますね。……さあ、先ほどの答えですよ、愛しいセレーネさま」  ぐっと思いきり下げられ、深い谷間が露わにさせられる。
/154ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4973人が本棚に入れています
本棚に追加