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耳に唇を寄せられ、かかる吐息にセレーネはぞくぞくっと背中を震わせる。
彼の長い睫毛が頬を撫で、愛撫するかのようにねっとりとした声で、衝撃的なことを囁かれた。
「アステル王国がヌクルティス王国に侵攻されたのは……皇帝陛下がそうなるよう、仕組んだからなのだ、と。それに、前皇帝は彼によって毒殺されたのだと、ね」
頭を殴られたかのようなショックが全身を貫き、セレーネは一瞬呆然としてしまう。
沢山の国民が死んだあの悲劇を、テオドールが企てたというのだろうか。
それに、彼が肉親をその手にかけるなど信じるわけにはいかず、セレーネは強い口調で言い返した。
「テオドールさまはそんなことしないわ。それに、クラウディウス帝国になんの得があるというんです……? いい加減なことを仰らないでください」
「得することですか……。この帝国にはなくとも、皇帝陛下が得することはあります」
ドクンと、心臓が跳ねた。
哀れみの目を向けられ、淡い笑みが浮かべられる。
顎に手をかけられ、強制的に顔を彼へと向けさせられた。その近すぎる距離に、セレーネは怯えの色を滲ませる。
「皇帝陛下は、なにを手に入れたと思いますか……?」
すっと、目が細められた。舐めるように自分を見られ、堪らず手を跳ねのけ逃げようとしたセレーネは、強い力で脚を引っ張られて体勢を崩してしまう。
背中がやわらかな寝台の上を何度か跳ね、脳みそを揺さぶられてしまい、軽い頭痛に襲われた。
華奢な肢体を組み敷かれては、なかなか起き上がることができない。
頬を撫でられ、その手が鎖骨へと下りてゆくさまに、セレーネはひっと喉を引きつらせた。
「ああ、本当にあなたは美しい。肌はまるで仄かな光を放っているようで、この世の者とは思えません」
ドレスの袷に手をかけられるとセレーネは瞬く間に青ざめ、肌を粟立たせる。
怖い怖い怖い。やめてとその手に触れたら愉しげに口許を歪められ、歯がカチカチと震えて噛み合わなくなった。
「怯えないで……と、思うのに、そう震えられるとこう、言いようもない恍惚とした感覚が襲ってきますね。……さあ、先ほどの答えですよ、愛しいセレーネさま」
ぐっと思いきり下げられ、深い谷間が露わにさせられる。
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