第十章 本能のままに

3/10
前へ
/369ページ
次へ
「蒼に次期会長を狙う意思がなければ、話は変わってたのよ。いくら適任でも、ヤル気のない人間に務まるほど簡単な職務じゃない。けど、きっかけはどうであれ、蒼は会長職に意欲を見せた」 「なんっか、納得いかないんだよな……。結局、俺は流されただけのような気がするんだけど?」と、蒼は髪をクシャッとかき上げた。 「それも大切なことよ? 和泉さんは自分が根っからの自信家で、ギャンブラーなことを認めてた。しかも、新しいもの好きで頑固。だから、自分には会長の椅子は相応しくないと、ずっと思ってたそうよ。充さんは見た目に似合わず、情に脆くて、柔軟性に欠けている。新しいことや物を取り入れることに消極的な上に、和泉さん同様に頑固」 「確かに……」と、蒼は苦笑いをした。 「蒼は三男て立場のお陰か、常に肩の力が抜けていて、他人の言葉を自分の糧にして成長できる。それでいて、自分の意見をしっかり持っていて、主張できる。だからと言って頑なになり過ぎず、引き際を心得ている。遊び心と堅実さを兼ね備えている人間は、そうはいないわ」 「真顔で言われると……リアクションに困るな……」  蒼は照れ臭そうに、顔を背ける。 「俺が会長の椅子に興味を示さなかったら、どうするつもりだったんだ?」 「その時は、真を次期会長に据えるつもりだった……」 「俺や真さんより、咲の方がよっぽど会長に相応しいって思うけど?」 「私は……。私には相応しくないよ……」  だって、私は犯罪者だから――――。  私は言葉を飲み込んだ。  蒼が私の頬に優しく触れて、そっと引き寄せた。蒼のキスが優しくて、嬉しくて、胸が締め付けられた。  結局、この腕の中に戻ってきてしまった……。 「そうだ! 明日の夜、春田さんと満井くんと飲みに行かないか?」 「え……?」 「パーティーや今日の会議で世話になったしさ。春田さんが俺と咲のこと心配してくれてたし」 「いいけど……」  早速、満井くんに電話をする蒼が、何だかやけに楽しそうで、私も嬉しくなった。
/369ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5841人が本棚に入れています
本棚に追加