第十章 本能のままに

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「でも……。人員整理とか異動があるんですよね?」と、満井くんが聞く。 「昨日の改革案で……」 「ああ……」と、蒼が横目で私を見ながら呟いた。 「不躾ですけど、あの改革案は成瀬さんが作ったんですか?」 「どうして?」 「あの改革案……、築島さんから預かっていた資料と内容がよく似ていたので……」  満井くんは気まずそうに言った。 「すみません! 資料……読みました」 「気にしなくていいよ。読まれてもいいと思ったから、満井くんに預けたんだし」と、蒼が笑う。  蒼が満井くんに二種類の資料を預けていたことは、聞いていた。その一つを、真が差し替えたことも。 「あれは、半分は蒼が作ったものなの」 「やっぱり……。じゃあ、どうして直前で差し替えに?」 「蒼は知らなかったのよ。私が徳田社長から改革案の内容を聞いていたことを」 「え……?」  春田さんと満井くんは驚いていた。  蒼は、察しがついていたようだ。 「咲は秘密主義なんだよ」 「でも……」 「あれは、本当に念のために用意したものだったんだよ。昨日の段階では、俺があの改革案を提示して承認されるとは思っていなかったから。それを、咲が最も効力のある状況で活用したってだけだよ」 「黙ってそんなことされて、怒らないんですか?」と、満井くんが少し不満そうに聞いた。 「惚れた弱み……かな?」と、蒼が私に笑う。
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