第十章 本能のままに

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「正直なところは?」 「すげームカついた」と言って、ジョッキに半分ほど残っていたビールを飲み干す。  やっぱり……。 「俺の知らないところで徳田社長とこそこそ会ってたとか、あり得ないだろ。俺は三か月我慢したのに」 「そこ?」  春田さんと満井くんが拍子抜けした表情で蒼を見た。 「改革案をお前が提示することを持ち掛けたのは、徳田社長だろ」  え……。 「最初に徳田社長とコンタクトを取ったのは咲だろうけど、咲の立場を知って改革案を託したのは社長だろ?」 「どうして、そう思うの?」 「咲は俺が改革案を作っていることを知らなかったはずだし、知っていても自分が手を加えようなんて考えない。けど、徳田社長は改革案の内容を知っていて、それだけでは物足りないことも、提示して承認されるには俺の立場が弱いこともわかっていた」  ホントに……、もう……。  今すぐにキスしたい――。  そう思った瞬間、蒼の唇が私の唇に触れた。 「――――っ!」 「惚れ直した?」  蒼が子供のような無邪気な顔で笑った。 「ばかっ!」  恥ずかしくて、春田さんと満井くんの顔を見れなかった。
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