エピローグ

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エピローグ

   時折吹く風が肌寒く感じる頃、私と(そう)は札幌の教会にいた。  蒼にプレゼントしてもらったドレスを着て、私は樹梨(じゅり)の結婚式に参列していた。  左手の薬指には、誕生日に蒼からもらった指輪。  偶然にも、今日は蒼の誕生日。  私は昨夜、蒼は今朝、移動した。  蒼がT&N開発の常務に、私がT&N観光の副社長に就任してから三週間。多忙な毎日に追われながらも、私たちは一緒に暮らしていた。 「蒼、誕生日プレゼントは何がいい?」  挙式が終わって教会の外に出た時、私が聞いた。 「(さく)」と、蒼は即答した。  私は無言で蒼を見た。 「いや、マジで。早く抱きたい」  確かに、お互いに忙しすぎて、最近は挨拶を交わすこともままならなかった。ダブルベッドを買うまではと、私が自分のベッドを蒼のマンションに持ち込んだせいで、一緒に眠ることもなかった。  正直、私も蒼に触れたかったし、触れて欲しかった。 「本音を言うと、一つあるんだけど」 「何?」 「築島(つきしま)咲」  教会の扉が開くと、祝福の拍手に包まれて、樹梨と日高(ひだか)さんが腕を組んで姿を見せた。ブーケをキャッチしようと、女性たちが階段下に駆け出す。 「ブーケ、いいのか?」と、蒼が拍手をしながら言った。 「うん」と、私も拍手をしながら答えた。 「ま、咲には必要ないか」 「うん。人妻がもらっちゃダメでしょう」  蒼の手が止まった。  樹梨がブーケを放ち、参列者はブーケの行く先に注目した。  私は蒼の首に腕を絡め、引き寄せた。昨日の朝振りのキス。 「誕生日おめでとう、蒼。『築島咲』をあげる」  蒼は、信じられないという顔。 「いつ――」 「今朝」  札幌駅で蒼と待ち合わせる前、私は婚姻届を提出した。 「…………」 「愛してるわ、蒼」  言葉の代わりに、蒼が私にキスをした。 ------END------
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