番外編*初めての夫婦喧嘩

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番外編*初めての夫婦喧嘩

第一回・男子会  初めて喧嘩をした。  これまでも意見の食い違いや意地の張り合いはあったけれど、真っ向から言い合ったことはなかった。  昨夜、ベッドの中で言い合いになり、(さく)は自分の部屋で眠った。  いつもなら時間が合わない日でも咲が先に出る時は、朝食が準備されていた。なのに、今朝はそれがなかった。  わかっている。俺が悪い。 「だったら素直に謝ればいいだろ」  (ゆう)が言った。 「そうだな、まずは謝ってから話し合いだな」  (まこと)さんも頷く。 「わかってるよ! わかってるけど……」  俺はテーブルに額を押し付けて、うなだれた。 「でも、お前がそんなにこだわるとは意外だな」と、侑がワイングラスを片手に笑った。 「確かに」  真さんはウイスキー。 「二人はやんないの?」 「やるよ? 子供が生まれたら」と、真さん。 「生まれる前にじゃないんだ」と、侑。 「愛莉(あいり)が今の体形じゃ嫌だって言うから」 「なるほどね。ま、真さんだって若い嫁を見せびらかしたいよな」 「とーぜん!」 「俺だって!」と、俺は立ち上がった。 「俺だって見せびらかしたいんだよ!」  突然立ち上がったせいで、立ち眩みがした。 「飲み過ぎだ、(そう)」 「最初から飛ばしてたからな」 「館山(たてやま)は?」  真さんに差し出されて、俺は水を一口飲んだ。 「ああ……。写真は撮るかな」 「なんで……俺はダメなんだよ……」  ビールやらウイスキーやらを煽ったせいで、頭がくらくらする。喧嘩と酒のせいで、自分でも情けない姿を晒していることはわかっていた。 「咲はなんで嫌なんだ?」 「恥ずかしい……って」 「咲らしい……と言えば咲らしいか」 「何が恥ずかしいんだよ! パーティーであんなドレス着たくせに!」  俺はテーブルに肘をついて、焼き鳥にかぶりついた。 「ドレス姿を見たことあるなら、いいんじゃないの?」 「あれはっ! (みつる)兄さんが選んだものだし、俺の為に着たものでもないから――」 「あーーー、そういうことか」と言って、真さんも串を手に持った。 「咲が充さんの選んだドレスを着たことを根に持ってんのか」 「そこか」  侑は生ハムをフォークで刺す。 「結婚しても、余裕ないのな」 「うっせ」と言って、俺は残っていたビールを飲み干した。 「お前だって似たようなもんだろ」  一週間前から、侑の左手の薬指に収まっている指輪に目を向けた。 「わからなくはないけどな」 「でも、まぁ、見たいよな。自分の為にドレスアップして笑ってる姿」と、真さんがにやけた。  愛莉ちゃんのドレス姿を想像しているのだろう。 「だとしても『黙って喜べ』はまずいだろ」 「だよな……」  俺はまた、テーブルに顔を押し付けた。  まだ、怒ってるかなぁ……。  怒ってるよなぁ――――。 「よし! 説得には協力してやるから、まずは帰って謝れ!」  俺は深いため息を残して、店を出た。
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