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第一回・女子会
「それはムカつくわぁ」
百合さんがワインを片手に、言った。
「でしょ?」
「でも、よっぽど見たいんじゃないの? 咲のウエディングドレス姿」
「…………」
籍を入れて一か月。
初めての夫婦喧嘩の原因は、結婚式。
お互いに忙しくて、この一か月はまともな会話もなかった。やっと二人で休日を過ごせて、張り切って料理もした。セックスだって一か月振りだった。
久し振りに夢中でセックスをして夢見心地でいると、蒼が当然のように言った。
『結婚式はいつにする?』
私は深く考えずに答えた。
『しないよ?』
『はっ? なんで?』
『なんか……恥ずかしいから』
そこから、結婚式をする、しないで言い争いが始まった。
蒼は、親族へのお披露目や、T&N内でのお互いの立場を考えても結婚式は必要だと力説した。
私は、そんな古臭い考え方は納得できないと反論した。
一時間ほどベッドの上で言い合った結果、蒼が言った。
『つーか! やらないんじゃなくてやるって言ってんだから、女なら黙って喜んどけよ!』
私は寝室を出て、自分の部屋で眠った。
必ず用意していた朝食がテーブルになかったことで、私が怒っていることは蒼もわかっているはず。それなのに、今日一日電話どころかメッセージもなかった。
「正直に言ってごらん? どうしても式を挙げたくないってわけじゃないんでしょ?」
百合さんが私の口にチーズを押し込む。
「『したくない』んじゃなくて『しなくてもいい』って言いたかったんじゃないの?」
私はチーズを噛みながら、頷く。
「三男がムキになるから、引っ込みつかなくなっただけか」
私はもう一度、頷いた。
「わからなくもないけどね」
「百合さんは?」
「私も式には興味ないんだけど、侑は私にウエディングドレスを着せたいみたいだから、写真だけ撮ろうかと思ってる」
私はチャイナブルーを一口飲んだ。
「男って……、どうして女はみんなウエディングドレスや結婚式に憧れてると思うのかな」
「ま、実際に女が主役だし、憧れてる女がほとんどだろうしね」
「主役ったって……ドレス着て黙って座ってニコニコしてるだけじゃない」
私はテーブルに頬をつけて丸くなった。
「何が気に入らなかったの?」
「……」
「さーく」
「必要だって……」
「ん?」
「立場的にも結婚式は『必要だ』って言ったのよ」
私は無意識に口を尖らせていた。
「あーーー、そういうこと」と、百合さんは納得した。
「じゃあ、三男が素直に咲のウエディングドレス姿を見たいって言ったら、なんて答えてた?」
「少なくとも、あんなに嫌だって突っぱねることはしなかった……と思う」
「だったら、素直にそう言いなさい」
百合さんは私の頭を撫でた。
「でも! まずはきっちり謝ってもらわなきゃダメよ!」
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