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第二回・男子会
呼び出したのは自分なのに、俺はウーロン茶を飲んでいた。めり込む勢いでソファに蹲る。
「なんでそうなるかねぇ」と、真さんが苦笑いをした。
今日一日、どんな仕事をしたのか記憶がなかった。
「帰りたくない……」
本気で泣きそうだった。
「咲も素直じゃなさすぎだろ」
侑がハイペースでビールを飲む。
「男が謝ってんだから、『私も言い過ぎた』くらい言ってもいいだろ」
「館山、何かあった?」
「写真撮影は俺の為に仕方なくするんだと!」
「百合さんがそう言ったのか?」
「そ!」
侑は不機嫌さを隠さず、軟骨のから揚げを頬張る。
「なんでお前まで喧嘩してるんだよ……」
「百合と咲、昨日一緒に飲みながら、俺らと同じ話をしてたんだよ。で、百合があんまり咲の肩を持つから……」と言って、侑が口をつぐんだ。
「もう、そこまで言ったんなら吐け」
「『蒼が結婚式をしてやるって言ってんだから、咲が素直に結婚式をOKしてればもめずに済んだんだ』って……」
「言ったのか! 百合さんに?」
「言った……」
話しているうちに、侑の表情が曇っていく。
「百合さんは何て?」
「『偉そうに、してやるって何よ』『私は写真撮影してやるんだから、侑は口出しするな』だと!」
「侑……、お前もう帰れ」
俺はジョッキを侑の前から遠ざけた。
「帰って謝れ。お前まで喧嘩することないだろ」
「別にお前らのせいじゃねーよ」
侑はジョッキを自分の前に戻す。
「百合の本音が聞けたんだ。お情けで撮影してもらう前で良かったくらいだ」
「売り言葉に買い言葉だろ」
「わかってたんだよ! 百合が本当は嫌がってるの。気にしてないって言っても、俺のが年下なこと気にしてるのは俺よりも百合の方だし」
俺も軟骨のから揚げに手を伸ばす。
「お前のところも色々あるんだな……」
「いいですね、真さんのところは問題なさそうで」
「ないわけないだろ。つわりの時は俺は同じ部屋にもいられなかったんだぞ。匂いがダメだとか言われてさ。つわりが終わったら情緒不安定でくだらないことで怒るわ泣くわで、口を開こうものなら『男にはわからない苦しみなんだから黙ってろ』って怒鳴られるし……」と言って、真さんがため息をつく。
「それもまた……大変そうですね」
「他人事じゃねーぞ。お前たちだって近いうちに同じ目に合うんだからなっ」
俺たち三人は顔を見合わせて、飲みかけの酒を飲み干した。
「帰るか……」
俺も侑もわかっている。
どんなに愚痴っても、どんなに意地を張ってみても、結局惚れた女には敵わないんだ――。
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