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侑が不思議そうな顔で俺を見ていた。俺はビールを流し込み、ゆっくりとため息をついた。
「楽しいわけあるか。本社の内部情報が洩れているかもしれないんだぞ」
「とか言って、お前ってクールに見えて実はミーハーなとこがあるからな。情報屋の正体が知りたいだけじゃないのか」
俺は言葉に詰まった。情報屋の噂を調べていくうちに、俺は情報屋の正体を妄想するようになっていった。男だろうか、女だろうか。目的はなんだろう。俺のことを知っているだろうか……。
「というわけで――」
俺はわざとらしく咳払いをして、話を本題に戻した。
「俺は庶務課に異動することにした」
「はぁぁぁっ?」
さすがにこれには侑も面食らった表情をした。
「ちょっと待て、お前が庶務? お前、先週まで京都でばかでかいショッピングモール作ってたよな?」
「ああ。あれは自信作だ。お前も一度は行ってみろ」
「それを足掛かりに上層部に食い込んでいく気じゃなかったのかよ」
「そうそう」
「そうそうって……」
「ま、ぶっちゃけると、次のポストが空くまでに少し時間があるんだよ。入社からこっち働き詰めだったし、ちょっとのんびりしようかと思ってさ。そしたら、偶然にも本社の庶務課長が定年退職するっていうから、情報屋を探りつつ本社に慣れておこうとさ」
侑は合点がいったようで、ワインに視線を戻した。
「ここからが本題なんだけど、お前に庶務課についての調査と、今までの俺の経歴を改ざんしてほしいんだよ」
「改ざん?」
「そ。今のお前みたいに、グループ会長の息子が庶務課長なんておかしいと思う人間もいるだろ? だから、俺の輝かしい経歴を並の経歴に改ざんしてほしいってわけ」
侑はあきれたように大きなため息をついた。
「話は分かったよ。俺に、お前の探偵ごっこの片棒を担げってことね」
「さじ加減はお前に任せるよ。あ、俺とこいつに同じものを」
俺はバーテンダーに注文し、侑に営業スマイルを見せた。
「これからちょいちょい世話になるから、今日はおごらせてもらいます」
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