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第一章 出会い
「本日付で庶務課課長として異動してきました、築島蒼です。本社勤務には不慣れですので、皆さん、よろしくご指導願います」
爽やかな就任の挨拶に、総務部一同が拍手を送る。今の今まで後任が知らされなかったが、まさか社長の息子だなんて――。私は庶務課のメンバーの陰に隠れて、新課長の顔を見ていた。
私が働くT&Nホールディングス株式会社は、金融・観光・建築などの系列会社を束ねる親会社。その社長である築島桐也には三人の息子がいて、長男の和泉は金融部門、二男の充は観光部門を仕切っている。三男は入社から建築や開発で現場を走り回り、経営には携わっていないと聞いていた。
それがどうして、突然本社の、しかも庶務課長……?
この場の誰もが、いや本社の人間すべてが疑問に思っているだろう。
気が付くと、同じフロアの部長・課長の紹介が終わり、朝礼は解散となっていた。私はそそくさと自分のデスクに戻る。
「咲先輩! 新しい課長、若くて格好良くてラッキーですよね」
同じ庶務課の後輩、香山詩織が嬉しそうに私の耳元で言った。一か月ほど前に恋人と別れ、新しい恋を探している彼女にとっては、運命の出会いだろう。
「詩織ちゃん、課長の歓迎会の幹事お願いね。課長の好みなんかを知るチャンスでしょ?」
私は笑顔で言った。詩織ちゃんは可愛くて明るくて同性から見ても魅力的な子だけど、職場の先輩としてはもう少し真面目に仕事をしてほしい。
「はいっ! 任せてください」
詩織ちゃんは勢いよくデスクに戻ると、パソコンの電源を入れた。お店を検索するのだろう。
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