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「配達行ってきます」
誰にというわけでもなく、私は言った。同時に満井くんも立ち上がった。
「備品の納入があるので、俺も行きます」
毎月第一・第三月曜は備品の納入日で、コピー用紙やらボールペン、トイレットペーパーなんかがどっさり納入される。台車を使っても備品室に片づけるのに半日はかかるから、満井くんが引き受けてくれている。
「新しい課長、若いですね」
エレベーターの中で、満井くんが備品の注文書を見ながら言った。
「やりにくい?」
満井くんは二十七歳で、年が近いからか私が気軽に話せる数少ない仕事仲間だ。
「課長が誰であれ、仕事に影響はないですから。香山が喧しいのはアレですけど……」
満井くんは詩織ちゃんが嫌いだ。二年前、企画部から異動してきた詩織ちゃんは、地味な庶務の仕事を馬鹿にして、それを隠そうともしなかった。
華やかな企画部から使えないと追い出されたことを認めたくなかった詩織ちゃんの気持ちはわからなくもないが、それなりにプライドを持って庶務の仕事をしている人にしたら、当然頭にくる。前課長の計らいもあって、詩織ちゃんも少しずつ庶務課に馴染んでいったけど、満井くんは未だに詩織ちゃんを避けている。
まぁ、満井くんの好みが詩織ちゃんと正反対の春田さんだから、満井くんにとって詩織ちゃんは嫌いな女の代名詞なんだろう。
「詩織ちゃんに限らず、会長の息子で若くてイケメンとくれば、しばらく女子社員が騒ぎそうだよね」
「成瀬さんも課長みたいなタイプが好きなんですか?」
珍しく、満井くんが踏み込んで聞いてきた。
「私は一目惚れとかないな。課長の人柄も知らないから、タイプかどうかもわからないけど、あえて知りたいとも思わないかな」
「それか……」
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