5786人が本棚に入れています
本棚に追加
/369ページ
これを言ってしまったら、蒼は私をどう思うだろう。
私たちは、どうなってしまうだろう……。
『あいつはそんなにヤワじゃないと思うぞ』
電話での真の言葉を思い出す。
信じよう、蒼を――。
「私たちが黒幕だと睨んでいたのは築島充副社長なの」
「兄さん――?」
蒼の表情が強張った。
築島充は蒼の兄で、二男。今はT&Nグループのひとつ、T&N観光の副社長をしている。伯父である社長の引退が近く、年内に社長に就任することになっている。
「うん。そして、実際に川原が今日の夜会っていたのは、築島和泉社長だった」
「嘘だろ……」
築島和泉は長男で、T&Nフィナンシャルの社長だ。
「ちょっと待て。和泉と充がつるんでるなんてあり得ない」
蒼が動揺を隠して、言った。
「和泉社長と充副社長の仲が良くないのはわかってる。だから、私も川原が接触したのが和泉社長だと聞いて、驚いた」
「そもそも、川原と充兄さんが繋がってると疑った根拠は?」
「新条百合」
「しんじょうゆり?」
蒼が彼女の存在を知っているのかはわからなかったが、どうやら初めて聞く名前のようだった。
「情報システム部部長で私の上司」
「その女が情報源?」
「そう。私に築島充副社長を調べるように指示してきたの」
「新条百合が充兄さんを疑った根拠は?」
「百合さんは……築島和泉社長の元恋人」
「和泉兄さんの――?」
「そして、百合さんの今の恋人は、侑」
「はっ……?」
さすがに驚きを隠せず、蒼は言葉を失った。
侑、蒼に百合さんのことを話してなかったのか……。
最初のコメントを投稿しよう!