第一章 出会い

4/10
前へ
/369ページ
次へ
 エレベーターが地下一階に到着し、私と満井くんは従業員用の駐車場に向かって歩き出した。備品を取り扱う業者は地下駐車場通用口に荷物を降ろすことになっている。そこから各フロアの備品室に収めるまでが庶務課の仕事だ。四月の第一月曜日とあって、今日の納入品はいつもの三倍はあった。ざっと見ても大小合わせて段ボールが三十箱は、さすがに多すぎる。 「満井くん……、これ発注ミスないよね?」  満井くんは発注書のリストを指でなぞりながら確認する。 「ミス……ではないですね。営業宛の商品試作品(サンプル)が十箱だそうです」  私はため息をついて、通用口入口の社内電話の受話器を取った。庶務課の内線番号を押す。 『はい庶務課、築島です』  いきなり新任の課長が出て、私は驚いた。 「成瀬です。課長、春田さんをお願いします」 『代わります』  すぐに保留ボタンが押され、三秒ほどで通話ボタンが押された。 『春田です』 「春田さん、今忙しい? 納入品が多くて私と満井くんではさばききれないから、手伝ってほしいんだけど」 『すぐに行きます』 「お願いします」  私は受話器を置いた。満井くんは台車に段ボール箱を積み始めていた。満井くんから発注書を受け取ると、私も折りたたまれた台車を広げて、段ボールを載せ始めた。 「春田さんが来てくれるって」 「そうですか……」  満井くんは大きくて重そうな営業部宛の荷物を引き受けてくれた。満井くんは同じフロアの女子社員に人気がある。常にレディファーストで優しいし、口数は少ないけど無口というほどでもない。満井くんと春田さんが付き合っていると知ったら、泣く子もいるだろう。満井くんも春田さんも大っぴらにする気はないだろうけど。 「春田さん、新しい課長に慣れるまでに時間がかかるかもしれないから、満井くんフォローしてあげて」 「……わかりますか?」  数秒の間があって、満井くんが聞いた。 「誰も気が付いてないと思うよ。私は、ちょっと勘がいいほうだから、なんとなく気が付いたけど」 「そうですか……」  満井くんはそれ以上何も言わなかった。
/369ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5842人が本棚に入れています
本棚に追加