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善信は目の前の牛タンを焼き過ぎる前にと摘み上げた。
「ハルトくん」
「……はい」
改まって名前を呼ばれたハルトは、何となく居住まいを正す。
「よっちゃんが他人をこんなに褒めることって滅多にないの。しかも初対面の人間に対してなんて、初めてのことかもしれない」
そうだったか? と善信は疑問に思うも、折角真面目に話を進めてくれているのだから黙って様子を窺う。
「その上、お肉を焼いて食べさせてあげるなんてことも絶対にないんだからっ」
それはお前だ。 と流石に突っ込みたい。
善信は焼けた肉をこれ見よがしに自分の口へと押し込み咀嚼し、豪快に嚥下した。
「それだけ、キミのことが気に入ったってことだよ。もちろん僕もね」
「えっと……有り難うございます」
「とにかくさ、少し考えてみてもらえないかな。明後日までに、僕の携帯に連絡入れてね」
「明後日?」
「うん。Jフェスまで時間がなくてね。練習も3日後から始めるの。数週間足らずで振り付けをマスターできて最高に踊れる人材でないとやる意味ないから」
言うなりてきぱきと携帯を操作してハルトにプロフィール画面を見せる肇に、ずっと見守っていた善信は呆気に取られた。
(おいおい、いきなりそんなプレッシャー掛けてどうするんだ)
当事者のハルトよりも、こっちの方が顔面蒼白になりそうだ。
「そんな重大なことを、俺に……?」
「そ。期待してるよ」
肇の今まで以上のニッコリ顔に、ハルトは「はぁ…」と乾いた返事を一つ零した。
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