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所属している芸能事務所の広い一室。
窓際には横一列に連結された机と等間隔にパイプ椅子が置かれ、目の前には敢えて何も置かず広い空間を作り出している。
椅子には自分の右隣にユニットの相方である苗木肇、その隣にマネージャーの谷先。左隣に事務所の社長とその他関係者が2名、ずらりと並んで腰を掛けていた。
羽兼善信は眉を顰め、机に置かれた審査対象とされる人物リストに目を落とす…。
たった今、Jフェスで踊ってもらうバックダンサーのオーディションを終えたところだ。
人気アイドルユニット『WorB』の名前に加え、Jフェスという大舞台で踊れるとあってか、かなりレベルの高いダンサー達が足を運んでくれた。
その中から2名、選出しなければならない。
この考えに至ったのは、ほんの数日前。――あの黒い手紙が届いた日のことだ。
――…
スッキリと片付けられた部屋。ソファーに腰を下ろして一通の手紙を静かに睨みつける善信は、1つの不安を抱えていた。
「はい、お待たせ。とりあえず食事にしよう」
その不安を払い除けるかのようなタイミングでテーブルにカレーライスの盛られた皿を置く肇に顔を上げた。
仕事中はコンタクトをしている肇だが、自室にいる今はシルバーフレームの眼鏡を掛けている。普段の甘い色気に加え理知的な雰囲気が足されたように思う。
「昨日の残りだけど2日目の方が美味しいって言うし、一緒に片付けてくれたら嬉しいんだけど」
こっちが断らないことを知っている肇は、ニコニコと嬉しそうに食事の準備を整えていく。
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