継続夢

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継続夢

 男が、立っていた。  影のような黒を纏っていて顔はよく見えない。  全身を暗がりで塗りたくった、色彩を持たない姿。  その右手に月明りを閉じ込めたように鋭く輝くナイフを持っていた。  一歩一歩、男がこちらに向けて歩いてくる。私の身体は動かない。  ゆっくり。だけど、決して止まることなく。  ゆっくりゆっくり、一歩一歩……。  そこで目が覚めた。 「夢? よかった……」  ベッドの中で息を吐いた。  全身にびっしょりと汗をかいていて、とても気持ちが悪かった。  それから数日後。  私はまたあの男の夢を見た。  前よりも、ずっと距離が近い。  男が迫ってくる。もう、すぐそば。  ベッドの横までやってきた。  相変わらず男の顔は見えない。真っ暗闇に覆われている。  私の顔のすぐ近くで、ナイフが光を放っていた。  腕が、ゆっくりと振り上げられる―― 「ひっ!」  飛び起きる。  額を汗のしずくが滑り落ちていった。 「また、あの夢……」  信じられない。夢が、続いていた。  もしもまだ、この夢に続きがあるとしたら――。  私はたまらず、上京してから久しぶりに母へ電話をかけた。 「ばかねぇ、疲れているのよ。そっちの生活はどう?」  母が笑い飛ばしてくれたおかげで、私の気持ちも少しだけ軽くなった。そろそろ電話を切ろうかというときに母が思い出したように呟いた。 「そんなに怖いなら、ばあちゃんのぬいぐるみを抱いて寝たらいいよ」  おばあちゃんが作ってくれたぬいぐるみ。  私が子供のころから大切にしていた宝物で、引越したときも持ってきたクマのポン君だ。  その日から、私はポン君を抱いて眠ることにした。  懐かしい祖母の思い出を頭の中に描くと、最近の不安が消えていくようによく眠れた。
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