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「ただいまー……」
そう言って、気がついた。なんだ、俺、まだあいつがいなくなったことを受け入れられずにいるのか。扉を閉めて、苦笑する。
――トン、トン、トン、トン
目を見開いた。懐かしい音――慌てて、キッチンへ飛び込む。
「あら、お帰りなさい、あなた」
妻だ。妻が、笑ってそこにいる。
「パパ」
その声に、足元を見る。たどたどしくもしっかりと踏みしめて、小さな男の子が、立っていた。
ああ、その目元、俺にそっくりだ。薄い唇は、ママ譲りかな。
熱いものが頬を伝う。俺はその時、初めて妻の言葉を信じた。
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