347人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
護衛の騎兵に先導され、六頭立ての馬車が進む。徴税人の紋章をつけた馬車だ。
見覚えのあるヤギを見かけて、ドゥカートは馬車を止めさせた。
「ジョセフィーヌじゃないか! どうしたんだ、こんなところに」
馬車からおりたドゥカートに、ヤギがうれしそうにじゃれついた。
「隊長! さがしたんですよ! アタシ、ヤギさんに連れられて隊長探して30の街、全部まわったんですよ! どこにいたんですか」
「すごいな、ジョセフィーヌ! よく俺の場所がわかったな」
ジョセフィーヌが頭をなでられ、うれしそうに目を細めた。
「たぶん、全部の街にいた。すれ違ったんだな」
「ええ~! 隊長もいらしたんですか? そうならそうと言ってくださればよかったのにぃ。 あ、そうだ! 隊長、聖堂には行っちゃダメです! 近衛隊、アタシたちのじゃない、王弟殿下の私兵あがりの新しい近衛隊が、銀の弾丸作って隊長のこと待ち構えてます」
馬車から王子が降りてきた。狂王の制服、かつてドゥカートが父である狂王にゆずった制服を身に着けていた。
「副長、王家の宮殿の絨毯がなにゆえに紅いか知っているか?」
「王子! 生きてらしたのですね!」
副長が息をのんだ。
「絨毯を紅く染める覚悟のある者だけが、王となるからだ。行くぞ」
「おまえは連れては行けない。待機してろ」
「そんなアタシも行きます! 隊長は、アタシをかばって王殺しの罪を」
ドゥカートが副長の髪の毛をくしゃくしゃにした。
「いつものように、待ってろ。俺はいつも必ず帰ってきたろ」
副長が涙ぐんだ。馬車が遠ざかってゆく。
「あ、ヤギさん! 待って!」
副長は、ヤギを追って駆け出した。
最初のコメントを投稿しよう!