【一章】

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「皆が何言ってるかわかんないよ……。オリオン……、何」 「んだよ、愛してるって言ってんだよ」  気づけば、オリオンがいない日常なんてなかった。必ず傍にいて、笑って、泣いて、怒って、また笑った。人を好きになる難しさ、楽しさ、嬉しさ、悲しさを二人で感じながら生きてきた。恥ずかしがり屋のオリオン。今は涙を流しながら、アルテミスを抱きしめる。この温もりをまだ感じていたい。それだけでよかった。 「ニュクス様、私は二人の気持ちを汲んでやりたい。どんな運命が待ち受けていようとも、抗ってこそ道は開かれる。今までもそうだったでしょう? ニュクス様の右腕は今を繋ぐために犠牲になった。それがなければ、アルテミスをこの時代まで送れなかった」 「……確かにヘラの言う通り。ラグナロク聖戦でクロノスに斬られた腕も、今はあの時の選択が間違っていなかったと思える。いつも、アポロンの後ろで泣きべそをかいていたアルテミスが最愛の人を見つけ、共に生きようとしているのを見れただけで運命は開けたのかもしれないわね」  涙を拭いながら寄り添う二人を嬉しそうに見つめるヘラとニュクス。アルテミスは恥ずかしくなり、目を逸らしてしまったが、オリオンの手に少しだけ力が入るのが伝わってきた。 「俺はまだ助かる可能性があると言う事ですか? ロザナと一緒に生きる未来が僅かにでもあるのであれば」 「あります、この呪術を解く方法が一つだけ。しかし、それはアルテミスにとっては難しい選択になるでしょう。それをヘラは言いたいのですね?」 「はい、私は愛で神界を救います。種族、姿形が違っても変わらないもの。それが愛です。私はオリオンとアルテミスの寄り添い合う姿を見て、残された可能性に賭けるべきだと思いました」 「わかりました、ヘラ。アルテミス、今から言う事をしっかり受け止めなさい。貴女は選ばなければなりません。どちらかを捨てる勇気。大切なものは一つしか持てないものです。欲張れば、どちらも失います。いいですね」  柔らかな表情をしていたニュクスの顔つきが真剣そのものになる。アルテミスとオリオンは顔を見合わせると小さく頷き合った。 「ニュクス様、その方法を教えて下さい」  両手に持ち切れないのであれば、どちらかを諦めるしかない。大切な一つを守るための選択の時が訪れようとしていた。
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