キツネの嫁入り

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・・・美味い。 サラダもちょうどいい味加減で、 スープもちょうどいい。 パンの焼き加減も、 まるで母さんが作ったような。 「遥人さま、いかがですか?」 「・・・別に」 こいつの前で正直に言うのは照れくさいから、 適当に答えてただ食べる。 ・・・マジで美味い。 「・・・・・・」 つーか、こっち見んなよ。 見られながら食べるとか、落ち着かねぇじゃん。 なんか、なんか話題、 話題は・・・と、 ・・・あ。 「お前さ」 「はい」 「服とか、どうしてるわけ?」 「服、ですか?」 よく見たらこいつ、初日と同じ服着てる。 「まさかずっと洗ってないんじゃないだろうな」 「あ、洗ってます!」 「じゃあその間、何着てるんだよ」 「何も着ていません」 ・・・は? 「え、全裸でいるの?全裸で夕飯の支度とかしてんのかよ」 「あの、服を着ていない間は白狐の姿で」 あー、なるほど。 誰かに見られたらどうすんだよ、って思ったけど、 あの姿ならぬいぐるみか何かと間違えられるだけか。 いや、にしても、 不便なことに変わりないか。 「なんにせよ、これから服、買いに行くぞ」 「えっ」 「数着あった方がいいだろ。下着も必要だろ?」 「で、ですがお金は」 「そんなん出世払いでいい。親父に言えば出してくれるかもしれないし」 だって親父は、 こいつのこと家族として迎えるって言ったんだからな。 「あ・・・ありがとうございます、遥人さま」 「・・・・・・」 だから、 そうやって笑うなって。 俺はお前のこと化けもんってバカにしたんだから。 嫌な奴なんだから。 こいつのこと、認めたわけじゃない。 家族として迎えるなんて、とんでもない。 でも、母さんがこいつに、 俺たちを守るよう言ったのなら。 こいつが恩返しとして母さんの願いを叶えてるだけなら、 何も言えないだろ。 「紺、コーヒー」 「は、はい」 おどおどしながらキッチンに戻るこいつが、 なんだか愉快だった。
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