キツネの嫁入り

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キツネの嫁入り

朝起きると朝食が用意されていて、 母親が笑顔で「おはよう」って言ってくれて、 家を出るときには 「いってらっしゃい」って送ってくれる。 仕事はできるけど私生活は頼りない父親と、 バレーボール一筋で猿っぽい弟と、 綺麗で優しかった母親。 ごくごく普通の家庭だった。 でもその普通がどれだけ価値のあるものか、 俺は気付いていなかった。 「やべ、もう朝になっちまう」 朝やけを見ながら、 俺は誰もいない道を一人歩いていた。 夜中のうちに帰る予定だったのに、 あの女がしつこいから、こんな時間になっちまった。 ・・・でも、ま、いっか。 最近ヤった女の中で一番上手かったし。 おっぱい、でかかったし。 あーあ、家に帰ったらご飯作るか。 どうせ親父も勇雅も寝てるし。 で、あいつら見送ったら寝るか。 徹夜で授業なんか聞いたら眠くなるからな。 それならサボって家で寝てた方がマシだ。 ほら、あくびも出るし。 一晩中頑張ってたから、疲れてんだよ、俺。 「ふああああ・・・・・・あれ?」 なんか、地面の色、濃い。 っていうか、濡れてる? 「もしかして、雨・・・うわ!」 ぽつ、ぽつだったのに、 突然雨が降り出しやがった。 冷ってぇ。 このままじゃずぶ濡れじゃん。 まあいいや、家までもうちょっとだから突っ走るか。 俺は授業で鍛え抜かれた足を駆使して、 必死になって走り続ける。 あーあ、流れるくらい雨降ってる。 洪水だ、もう。 この靴気に入ってるのに・・・ちくしょう。 ようやく家が見えてきて、ほっとする。 こりゃ、朝飯作る前に風呂だな。 さっき入ったばっかなのに。 「よし」 ようやく玄関前にたどりついて、鍵を取り出そうとする。 けど、引っかかっていてなかなか出てこない。 「あれ?ポケットのなかに・・・あ、あった」 ようやく見つけたそのとき、 俺の後ろで 何かがものすごく光った。 ら、落雷? そう思って振り返ったけど、 何かが焦げたり燃えたりという様子は全然ない。 いや、それよりも、 なんか火柱・・・いや違う、 人の姿が見えるんだけど。 「・・・・・・」 いや、怖い怖い怖い。 さっきまで絶対にいなかったし。 で、でも、 足・・・動かない。
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