始まり

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6/20 今日は朝から蒸し暑い エアコンもいつの間にか止まっていたようで、身体中汗まみれで気持ち悪い。 それに真由の部屋から聞こえる目覚ましの音がやたらうるさいのでダブルでイラついていた。 自宅ではあまり見ないモノも今日は見えている。 少し長めの前髪の隙間から机の上の時計を見た。 "まだ7:00じゃねえか、真由は起きてるのか?" 耳を澄ましてみると階下からは母親がいつものように朝食の準備に追われている。 真由の声も聞こえるからもう学校に行く準備を済ませてるんだろう。 俺は鳴りっぱなしになっている真由の部屋の目覚ましを止め階下へと降りて行った。 軽く「おはよう」とダル気味に挨拶をすると 真由はおろか父は母までが驚きの顔をして見てきたので 「俺が早起きしたら可笑しいか?」といつもよりもテンション低めの声で笑う。 「いやいやそんな事ないよ?てか今日は何かあるの?兄さんが早起きなんて珍しいから……」 最後はゴニョゴニョと聞き取れないような小さい声で返事を返す真由に同調するように"ウンウン"と頷く両親。 「約束……叔父さんの番組の収録……」全てを言い終わる前に思い出したのか、軽くポンと手を打つと 「あぁ、手紙の~。あれって今日だったのね?」 「そういう事だ。忘れてたろ?真由」 ジト目で妹を見つめると、話を反らすように 「ずいぶんと早く行くのね?収録時間にはいくらなんでも早くない?」 持っていたマグカップをコトリとテーブルに置いた。 その中身はまだ湯気が立ち上る程でコーヒーの仄かな香りが俺の鼻につく。 因みに真由はブラック派で甘いと飲めないそうな。まぁ随分と大人だこと。 俺が飲むカフェオレによくこうしてちょこちょこ嫌みを言う。 「そんなに砂糖とミルクがばがば入れて気持ち悪くならないの?」ってね。 そこでささやかな抵抗宜しく 「甘さが脳に栄養を与えるらしいからな。でも真由が言う程砂糖は入れてねぇよ、その代わりミルクはかなりの量をいれてるけど」 「お子ちゃま舌(笑)」 「やかましわ(笑)」 これが俺達兄妹の軽い挨拶みたいなもんだ。 そして軽く朝食を食べて目的地のTV局へ行こうと玄関へ行くと 「今日の夜ご飯どうするの?」とリビングから母の声がしてきたので 「今日の夜はバイトだからいらない。賄い食うから」と返した。 「わかった~」と間延びした声を背中に受けてドアを開ける。 ジットリとまとわりつくような暑さに舌打ちしながら俺は家を出た。
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