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パンドラの匣は便利な道具でもある。
短い話言葉に(笑)を足せば、冗談で済ませられるし、削除すれば全て無かったことに出来る。
何だか、自然過ぎて嘘みたいに私は村田君と二人きりで部屋で過ごすようになってしまった。
村田君が先に平安湯に行き、ネットで予約しておいた個室に入り、間を置いて私が部屋を訪れると言う方法を思いついた時、二人ともなんて良い考えがあるのだろうと驚いた。
でも、私達が知らなかっただけで、日帰り温泉の個室をラブホ代りに使う人達は多いのかも知れない。
こんなに安全に、容易く秘密の逢瀬が出来てしまうのだから…
平安湯の駐車場や更衣室、浴場で誰かと顔を合わす事は稀だし、会っても怪しまれない。
万一、危ないと思ったら、五階の個室で待っている村田君に(ちょっと知り合いがいてヤバイから今日はパス)
とラインすれば良いだけなのだ。
色々な意味で日帰り温泉の仕様は私達に都合が良く、そして村田君の身体も私に都合が良かった。
村田君の髭は濃いけれど、肌は柔らかくて気持ち良いから行為の後、村田君の脚に私の脚を絡ませていると眠くなってしまう。
最近では二人でウトウトし、先に目を覚ました村田君が私の髪を撫でながら「由美さんも気持ち良さそうに寝てたね」と言うのが平安湯でのワンセットだ。
すっかり村田君のやり方に慣れたけど決して褒められた事では無いし、いつか終わりにしないといけないとは知っている。
でも何故だか、その時が来ても悲しくない自信がある。
きっと、村田君と会わなくなっても、私一人で仕事帰りに、この平安湯に来て、湯につかり、サウナに入るだろう。
そして、その後は個室ではなくて女性専用フロアのソファでうたた寝するのだろう。
目覚めた時、隣に村田君がいるかどうか、眠る前にしたか、しなかったか、それだけの違いだ。
今の私にとって、日帰り温泉で入浴し、その後に垢すりやマッサージのコーナーに行くのと、村田君と部屋で戯れる事と「心地よい」と言う意味では同じなのだ。
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